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テキスト文書に変換した文書「和歌山カレー事件ヒ素事件鑑定資料蛍光X線分析 河合潤」計量計測データバンクニュース

テキスト文書に変換した文書「和歌山カレー事件ヒ素事件鑑定資料蛍光X線分析 河合潤」(2020年1月31日計量計測データバンクニュース)

テキスト文書に変換した文書「和歌山カレー事件ヒ素事件鑑定資料蛍光x線分析 河合潤」(2020年1月31日 計量計測データバンクニュース)
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テキスト文書に変換した文書「和歌山カレー事件ヒ素事件鑑定資料蛍光x線分析 河合潤」(2020年1月31日 計量計測データバンクニュース)

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和歌山カレー砒素事件鑑定資料―蛍光 X 線分析 河合潤
Reviews on Forensic Analysis of Wakayama Arsenic Case – X-Ray Fluorescence Analysis – Submitted to Court Jun KAWAI

Department of Materials Science and Engineering, Kyoto University, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan
(Received 14 November 2011, Revised 3 February 2012, Accepted 4 February 2012)
   The Wakayama poisoning case was that curry served at summer festival dated on July 25th, 1998, was poisoned by arsenic. The X-ray fluorescence analysis used in the legal advices submitted to the court was reviewed. Though it was believed that SPring-8 XRF has a large contribution for the judicial decision, existing general problems are discussed when synchrotron radiation X-ray fluorescence analysis (SR-XRF) is used for forensic analysis. It has been clarified that the SPring8 SR-XRF was not a major contribution, and if the SR-XRF were too much depended on, it is pointed out that the decision may have been inverted. [Key words] SR-XRF; Wakayama curry poisoning case; identification; forensic analysis; arsenic

 1998年(平成10年)7月25日和歌山市の夏祭りのカレーに亜砒酸が混ぜられていた事件の裁判において,鑑定に用いられた蛍光X線分析のデータを総合的に批評した.SPring-8が大きな役割を果たしたといわれているが,放射光蛍光X線分析を裁判の鑑定に用いる問題点を一般的に論じた.実際にはSPring-8の役割は大きくな く,もし仮に放射光蛍光X線分析に頼りすぎた場合,判決が覆った可能性があったことを指摘した.

[キーワード]放射光蛍光 X線,和歌山カレー砒素事件,異同識別,鑑識,亜砒酸

総 説

1. はじめに

 和歌山カレー事件は,1998年(平成10年)7月25日の和歌山市の夏祭りで配られたカレーに亜砒酸が混ぜられていた事件で,4人の死者と60名以上に後遺症を残す悲惨な事件である.和歌山「市保健所は集団食中毒とみて病状の確認や原因食材の特定などを急いでいる.患者の発症が早いことから和歌山東署も原因調査を始めた.」これは,女子中学生が保健所,警察,病院に先んじてカレー事件が砒素中毒であることを新聞報道やインターネットだけから突き止めたというので評判になった文藝春秋のレポート1)に引用された朝日新聞の記事である.食中毒の次は農薬中毒の可能性が浮上した.文藝春秋のレポートに引用された朝日新聞の記事を続けて引用すると,誠佑記念病院の 「上野院長が午後十時すぎ,電話で市保健 所と話した時『他の病院では農薬中毒の症状があった』と聞いたが,基本的には『食中毒として対応すればいい』との内容だった. 不安を感じながらも,食中毒の治療を続けるしかなかったという.『症状が激すぎ, 食中毒にしては変だと思った.でも何が原因か確証が持てず,言い出すことができなかった』.上野院長は自戒をこめてそう振り返る.」(朝日新聞8/24夕刊)

 事件からおよそ1ヵ月後に病院長が自戒して振り返るように,その後「青酸化合物」が検出されたという誤った分析結果によって再び治療は振り回された.

 「ボタンの掛け違い」 1)が犠牲者を増やした原因であると言うのは当たっている. シアン検出は裁判記録によると7月26日午前5 時30分頃である. 「7月26日午前3時3分」 1) 自治会長は死亡し,後述の上田氏の証言によると, 自治会長の胃の吸引物及び死亡した小学生のカレーの中から砒素が検出されたという連絡が, 8 月2日の午後3時35分ころに,東京の科学警察研究所から和歌山県警に入った.続いて8月6日にいわゆる「紙コップ」の付着物に亜砒酸が検出されて,保険外交員宅のシロアリ駆除剤(亜砒酸)に含まれる微量元素のパターンとカレー中のそれとの一致が12月になってSPring-8により示され,犯人逮捕につながった.SPring-8が供用開始後,専門家でなくても理解可能なニュースになる初めての大きな成果として知られる.今ではすっかり忘れ去られてしまったとはいうものの,当時は「SPring-8」という大型放射光施設が一般社会に知られるきっかけとなった.カレー事件以降,全国で農薬などが食品へ混入される毒物混入模倣犯罪が頻発したことでも社会的に大きな影響を与えた.私は当時の模倣犯の新聞報道件数をデータベースで調べたことがある2).東京理科大学の中井氏が公判前に証拠を記者会見で開示したり,犯人が逮捕されたりしたことによって模倣犯が激減した.蛍光X線分 析が使われたことによって,シンクロトロン放射光施設と蛍光X線分析の有用性を社会に示すとともに,全国の警察へ蛍光X線分析装置とX線回折装置がそれぞれ40台近く,合計約80台が納入され,全国の救命救急病院でも50台をこえる蛍光X線分析装置が導入された2).

 13年以上が経過し,事件も風化しつある.今回たまたま裁判資料を入手することができたので, 上述したように,保険外交員宅のシロアリ駆除剤 (亜砒酸)に含まれる微量元素のパターンとカレー中のそれとの一致がSPring-8により示された,というように聞いていたが,どの程度の一致が一致として認められたのか,実測されたスペクトルはどういうものであったのか,入手した資料をもとに,これらについて批判的に解説するのが本稿の目的である.私自身は本事件の鑑定や裁判には一 切関わっておらず,今回スペクトル生データ,証人尋問調書などの裁判資料を初めて見た.鑑定や裁判に関わった研究者はそれぞれ複雑な感情をこの鑑定結果に持っているようであり,中立的な立場から事件を批判的に評価することは困難なようである.むしろ思い出したくない,関わりたくないというような印象を持っているようにもみえる.

  「現場付近にあった亜ヒ酸のついた紙コップと,容疑者宅にあった複数の亜ヒ酸,そしてカレー中の亜ヒ酸が同一のものかどうかが鑑定のポイントであった.亜ヒ酸は工業製品で,その原料産地,採掘時期,製造・精製方法等によりその微量の不純物組成が変化するので,捜査資料に含まれる微量の不純物を分析することにより異同識別が可能である.ところが,筆者らへの依頼は,カレーや 0.1 mg以下の試料からppmレベルの微量の不純物を分析しなければいけないという困難な 問題であった.そこで,極微量の試料で高感度分析が可能な放射光を励起源とする蛍光X線分析を用いた.幸いカレーの中から亜ヒ酸の結晶を見いだすことができ,これらの亜ヒ酸に含まれていた不純物の錫,アンチモン, ビスマスなどの重元素をSPring-8で,モリブ デンの有無をフォトンファクトリーで調べることにより異同識別が可能であった.」3) という中井氏の講演で,鑑定の概略を聞いていた. 鑑定資料を詳しく見てみると,保険外交員宅のシロアリ駆除剤(亜砒酸)に含まれる微量元素のパ ターンとカレー中のそれとの一致が放射光蛍光X線分析により示された,とは簡単には言い切ることのできない複雑な分析結果が得られていることがわかった.

 本稿の結論は,次の3点に要約できる.

(1) 中井氏のSPring-8の100 keVを超える高 エネルギー蛍光X線分析ではBi, Sb, Snなどの砒 素中の同族微量不純物の分析によって異同識別が できた,と思われているが,実際にはBi, Sb, Sn などの化学的性質が類似した不純物元素(Sb, Bi はAsと同族.SnはSbの隣接元素)は,SPring-8 の実験以前に,すでに科学警察研究所の丸茂氏らによって,SeとPbも加えた5元素を含む多くの 元素濃度がICP-AESによって分析され,Bi, Sb, Sn, Se, Pb合計5元素の濃度パターンから異同識別がなされていた. Biの存在については丸茂氏の測定 結果を中井氏は聞いていたため,原子番号の大き なBi K線(Kα = 76,Kβ = 87 keV)で確認するため,SPring-8で高エネルギー測定が可能なBL08Wを用いることが決まった.これらの不純物元 素とその濃度パターンはSPring-8で初めて見つかったものではなく,ICP-AESの定量分析によって,SPring-8のスペクトル・パターン以上の詳細 な濃度定量値がすでに得られており,SPring-8は ICP-AESの不完全な追実験であった.またこれらの一連のSPring-8での分析は放射光マイクロビームによるものではなく,2 mm×2 mmの大きなビームサイズによるものである.更にこれら不純物元 素濃度は数十ppmレベルあり,決して微量とは言わない,分析化学では容易な分析に相当した.

(2) 蛍光X線分析による鑑定で最も重要な役 割を果たした元素はMoである.殺人事件に関連 しない亜砒酸試料にはMoが含まれていなかった が,犯人につながる重要な証拠には共通してMo が含まれていた.MoはSPring-8でも観測されたが,Mo Kα = 17.4,Kβ = 19.6 keVのためSPring-8 の100 keV以上の高エネルギーX線励起では励起 効率が低すぎて信頼できるスペクトルが得られなかった.Moの存在はSPring-8に続いて中井氏が行ったKEK-PFの測定によって確認できた.し かしKEK-PFでもMo Kα線だけしか測定できて おらず,確認のために必要なKβ線は検出できな かった.シンクロトロン放射光蛍光X 線分析でも,また市販EDX装置でも,主成分のAsのKα (10.5 keV)のサムピークが21 keVに強く出現す るため,Mo Kβは確認できない.サムピークの 低エネルギー側のEDXスペクトルに特有なテー ルのためにMoの分析は不確実性が高い.こうい う分析では通常はMo Lα(2.3 keV)やWDX によっても確認すべきである.再鑑定として2年後 に行われた谷口・早川鑑定では,Mo Lα は SAE5120型EDX測定, KαはSR-WDX測定によって行われ,Moの存在が初めて確実なものとなっ た.MoはICPによっては確認されていない.短 時間で全元素が分析できる点が蛍光X 線分析の優れた点であり,試料量自体が少ない中の超微量Moの発見は,放射光蛍光X線分析の大きな成 果であろうが,Moの存在が中井鑑定では判決を左右できるほど確実とはいえなかった.

(3) 谷口・早川両氏による鑑定は主に弁護側 の要請による分析である.繰り返し再現性,放 射光マイクロビーム(実際のビームサイズはマ イクロメートルではなかったが)を用いた微小 試料上の場所によるスペクトルの変動幅をあら かじめ実際の鑑定試料によって調べることに よって放射光蛍光X線分析のバリデーションを 行った精密な分析である.バックグラウンドの 引き方は,当初はスペクトル上の30点を通る曲 線としていたが(谷口氏による),スペクトルを 拡大すると,弱いピークのバックグラウンドが 正しく引き算できていないことがわかり,後に は各ピークの前後を直線で結ぶバックグラウン ドに変更して定量値を算出しなおした(早川氏 による).定量分析値は,蛍光X線のエネルギー の違いによるプローブ深さと試料厚さを考慮し た補正,入射X線の散乱ピーク強度による補正, などを行った非常に精確な分析である.Moにつ いては,裁判官の要請によってスペクトルを拡 大プロットしなおし,ピークとバックグラウン ド強度の変動幅によって分析値の信頼性を示す 指標とともに提示した.WDX測定では Mo Kα1 とKα2が2:1の強度比で観測されており,Moの 存在という元素定性結果は初めて確実なものと なった.谷口・早川両氏の鑑定は中井氏の結果 を追認した分析であると一般に見なされている が,実際にはその精度と正確さは格段にすぐれ たものである.試料厚さの効果を考慮して,散 乱X線や主成分蛍光X線によって規格化し定量 分析値を算出するなど,高エネルギーシンクロ トロン放射光蛍光X線分析にこれまでにない新 しい手法を導入したものである.谷口・早川鑑定によってMoの存在が証明され,有罪判決の重 要な決め手の一つとなったと考えられる.


 本稿の結論に至る過程において,中井氏の鑑定内容に対して厳しい意見を述べた.この意見は今後のシンクロトロン放射光を用いた分析化 学や裁判での鑑定にとって注意すべき重要な事項を示唆するものであり,中井氏を誹謗中傷する意図はない.中井氏は今回の鑑定に対して科学者として複雑な感情を持っているであろうことは十分に理解しているつもりである.

 X線分析に関係する主な鑑定資料には,

・東京理科大学中井氏によるシンクロトロン放 射光蛍光X線を用いた測定.
・科学警察研究所丸茂氏ら
・杉田氏ら・鈴木真一 氏らによるSEM-EDXを用いた測定.
・科学警察研究所瀬戸氏ら
・鈴木康弘氏らによる波長分散型蛍光X線を用いた測定.
大阪電気通信大学谷口氏と広島大学早川氏によるシンクロトロン放射光を用いた測定(弁 護側の要請によるもの).
・多くのX線回折分析(亜砒酸であることを分 析できた).
・中井氏らがKEK-PFで行った放射光マイクロ ビーム分析による毛髪中の砒素の1次元測定 (長さ方向の砒素濃度の分析).
・和歌山県警科学捜査研究所野上氏によるSEMEDX測定.
・兵庫県警科学捜査研究所二宮氏によるX線透 過像とXRF測定.
などがある.

 この中で, X線回折については触れ ない.使われた分析法は, X線分析以外にイオンクロマト,ICP-AES,IRなど多岐にわたる分析法が用いられた.裁判に提出された鑑定書を時 系列順に表1に示す.本稿では職権6, 7, 8号の証拠を,谷口・早川鑑定(6号),及び早川鑑定(7号, 8号)と呼ぶ.

表1 裁判に提出された鑑定書

 今回の裁判資料は,再審弁護団から,資料レクチャーの依頼があった際に入手したものである.蛍光X線分析に関する部分の証人尋問調書および鑑定書を入手した.

 これらは表1に示すように請求番号がついており,いずれも公表され た著作物である.本稿はこれらにもとづいて執 筆した.再審弁護団によると,このような資料 をもとに当解説のような論文を公表・公開することについては法的な問題はないということで ある.また裁判での証言を速記した正式な証人尋問調書も要約しないでできるだけそのまま引 用する方がよい,ということなので,重要な部 分はそのまま引用した.しかしながら本解説の内容は,再審弁護団の考え方とは無関係であり, むしろ再審弁護団の考え方に反する見解も多い.

 蛍光 X 線分析としてどのような分析が行われ, どういう結果を与えたかをまとめ,レビューするのが本稿の目的である.また複数の独立な関係者に確認したところ,入手した裁判資料は真正の資料であることも確認できた. 表1に示すように膨大な鑑定資料が裁判に提出された.

 この表は,証拠番号が各鑑定書ごとに異なるため(最 も重要とされる紙コップについても「資料(1) 」 , 「資料(7)」などと鑑定書によって名称が異な る) ,その対応表を再審弁護団が作成したものの 一部を抜粋したものである.従って次節以降の各鑑定書で使われている「資料(1)」などは,番号が同じでも鑑定書によって異なる証拠品を指 し示している場合が多い.試資料の解釈を行うのが本稿の目的ではなく,X 線スペクトルのレビューをするのが本稿の目的であるので,証拠 として重要というよりは,スペクトルとして特 徴あるものを例示したことに注意していただき たい.

 SEM-EDX,XRFのような分析における略 称は定義しないで用いたが,本稿の末尾に用語 解説を付した.「砒素」は化学用語としては「ヒ素」が正式であるが,本稿では裁判の証人尋問 調書で「砒素」「亜砒酸」が使われているので, おおよそ「砒」に統一した.文献の引用の際には元の縦書きの資料の句読点や漢数字などは横書きで読みやすくするため,コンマ,ピリオド,アラビア数字などに改めた.

2. 砒素発見までの和歌山県警科学捜   査研究所での分析の経緯

 和歌山地方裁判所第24 回公判速記録の上田啓太氏(和歌山県警科学捜査研究所研究員)の証人尋問調書によると,和歌山県警科学捜査研究 所は7月26日午前1時ごろに,吐物を受領し始 めて,その後26日中だけでも466点の証拠物件を受領したという.受け取った証拠物件の確認 作業が終わったのは4人で作業して「7月27日の午前零時ごろまでかかったと思います」.

 この確認作業の詳細はわからないが,チャック付きポリ袋に個別に封入し,記録することであったと思われる.この際には各資料は詳細には観察されなかったようであるが,466点(後には707 点)の証拠物件を短時間に4人で調べた.

 品質管理では要員の交代に関するSOPまで整備しなければならないといわれている4).過酷な労働条件の分析であった.

 今になって振り返ると後知恵ではあるが,まず目視によって証拠品を詳しく調べるべきであったことがわかる.「平成10年 7月26日の午前1時ごろに受領した吐物8点につ いて,まず農薬検査を実施し,その後シアン検 査を行ったところ,そのうちの6点から青酸反応が認められたため,以後の資料についても検査を行いました.」 「7月26日の午前5時30分」には和歌山東署に報告しているので,青酸反応が認められたのはそれ以前であった.このとき青 酸反応はチオシアンに反応したものであって, シアンではなかったことが後に判明する.

 このときのシアン検査は,4名で「7月26日から8月 2日までに限ると,707点についてシアン検査を行いました」という.このシアン検査は「ピリ ジン・ピラゾロン法」で「資料を蒸留水とかに溶解するなどして作った検液について,クロラ ミンT溶液,そしてピリジン・ピラゾロン液を 加えてその発色を見るというもの」である.「このときシアンが存在すれば,薄いピンク色から青色に変色」するという.後に重要な証拠となるいわゆる「紙コップ」 , 「青色紙コップ」,「記 号エのコップ」などと呼ばれる紙コップに関し ては「たくさんの資料をやっていたので,まあ流れ作業でやってたので,見たと思いますけれ ども,ほとんど見てなかったに近いと思います」 .

 紙コップに純水を入れて内容物を溶解した後,その検液を一部採取してピリジン・ピラゾ ロン法の発色を見たが発色しなかった.分析用 検液採取後の紙コップは「作業台の上で自然乾 燥させ」てチャック付きポリ袋に保管した. 「8 月2日の午後3時35分ごろに,鑑定嘱託していた科学警察研究所より,(中略)胃吸引液から砒素が検出されたと言う連絡が科捜研所長に入り, 以後,科捜研においても,その予備検査を行っ」 た.科学警察研究所は当時東京千代田区にあった研究所である(現在は千葉県柏市).予備検査では,この紙コップは「平成10年8月6日の午前11時10分ごろに,保管中の紙コップを取り出して砒素の予備検査を行いました」.8月2日の科学警察研究所からの連絡直後から砒素検査を開始し, 8月6日までに492点について「グトツァイト法」で行った.

 「グトツァイト法」とは,「資 料を蒸留水等に混ぜるなどして作った検液,こ れを試験管に取り,ここに亜鉛末と希硫酸を加 え,その試験管を加熱します.この試験管の上 部に,硝酸銀試薬を湿らせたろ紙を近づけ,その発色を見るという方法です.黒色に発色すれ ば,砒素の存在の疑いがあります.」検査の結果砒素が検出されたので,「コップの底部に付いている粉末を採取して,X 線マイクロアナライ ザーとフーリエ変換赤外分光光度計による検査 を行いました.」8月6日午後1時30分には, 「X 線マイクロアナライザーからは砒素元素,フー リエ変換赤外分光光度計からは亜砒酸に類似した赤外吸収スペクトルが得られました. 」結局こ の紙コップは蒸留水を入れて乾燥させる操作を2回行ったことになる.

 それ以外にも指紋検出も 行われた.「コップから亜砒酸が検出されたこと から,重要な資料であるだろうということで, (中略)別に保管することとなりました.」 和歌山県警科捜研でのX 線マイクロアナライ ザーによる分析は,明石ABT-55WETSEM走査電子顕微鏡にフィリップスEDAX-9800型半導体検出器をけたSEM-EDX装置で20 kVの加速電圧で測定したものである.

3. 東京千代田区科学警察研究所での 砒素分析とXRFおよびSEM-EDX 測定

 上述したように,8月2日の午後3時35分ごろに,東京の科学警察研究所から和歌山の科捜研 に,死亡した自治会長の胃の吸引物などから砒 素を検出したという知らせが入った.自治会長が入院していたのは和歌山の病院であろうから, この間,どのような経緯があったのか入手した裁判資料からはわからない.またこの時の砒素 検出法も不明である.

 8月2日の東京での砒素発見の知らせにより, 上述したように和歌山で8月6日午後1時30分にX線マイクロアナライザーによって砒素が検 出され,その紙コップは東京へ運ばれた.和歌山地方裁判所第 28 回公判速記録の杉田律子氏 (警察庁科学警察研究所)の証人尋問調書によると,8月6日の夜に和歌山県警から「紙コップ」 を東京の科学警察研究所で受け取り,X 線マイクロアナライザー,IR,XRDを行ない,亜砒酸 を検出した.この時のX 線マイクロアナライザーによる分析は,請求番号「第1163号」杉田 氏らの鑑定書によると,PGT製EDXが附属した カメカSX-100型走査電子顕微鏡(加速電圧 20 kV,試料電流10nA,測定元素Na~U)で測定 したものである.この時のスペクトルを図1に示す.鑑定書には「この鑑定は平成10年8月6日に着手し,平成10年10月20日に終了した」と記載されており紙コップの付着物がSEM-EDXによって砒素であり,しかもIRとXRDによって亜砒酸であることを和歌山県警に続いて確認した分析である.図1にはX線スペクトルのフル・スケールが52433cpsと記入されている.半導体 検出器は,全積分強度が1万cpsを超えると数え落としが多くなるので,Asの一つのピークだけで も5万cpsであることから,X線がやや強すぎたのではないかと思われる.

図1 紙コップ付着物の X 線マイクロアナライ ザー(裁判資料1163によ る)

 試料電流が10 nAなので, 電子ビームは少し強すぎるのではないか,という気がするが,データが信頼できなくなるほど強すぎるということはない.定量値を算出するなら数え落としの補正をした後で求めるべきだと思われるが,この時は特に定量分析は行われていない.

 請求番号「第1168号」丸茂義輝氏らの鑑定書 (平成10年12月15日)には,科学警察研究所において丸茂氏らがX線マイクロアナライザーを 用いて様々な試料を測定した結果が示されている.測定に用いたX線マイクロアナライザーは上述の杉田氏らのものと同じであるが,加速電圧を20 kV →15 kVへ低減させている点が異なる.SEM像観測のためであったと思われる.試料は鑑定資料粉末の一部をとり,カーボン製試 料台に張り付けた両面テープの上にのせ,炭素蒸着を行った後,2次電子像観測及びEDX分析 を行った.SEM-EDXにより鑑定資料から検出された元素を図2に示す.

 「二次電子像の観察から明らかなように,亜ヒ酸標準品は正八面体である.また鑑定資料(1) ~(7)の二次電子像を観察すると,正八面体構造を保持した結晶が観察された」という. 2次電 子像観察による微細結晶粒の観察結果から亜砒酸という化学状態分析が可能ということである. 化学状態分析には,通常IRやXRDが必須であると多くの人が思い込んでいるが,SEM像で簡易に化学状態を知ることができるというものであり,状態分析手法として大いに参考になる記述である.亜砒酸標準品のSEM像を図3に示す.上半分が不明瞭であるものの中央部に正八面体構 造が確認できる.

 SEM-EDXスペクトルの代表例を図 4に示す. Ne 以下の軽元素(Ne Kα = 0.85 keV)が分析か ら除外されているのは,EDXのために,軽元素のエネルギー範囲の分析の信頼性が低いからであろう. EPMAのJIS規格5)によると(このJIS 規格は波長分散方式の定性分析のための規格であってSEM-EDXではない点に注意する必要があるが試験報告書への記載事項は共通すると考えてよい) ,低濃度になって複数のピークによる確認が困難になるまで,すべてのピークを複数のピークにより確認しながら同定し,「同定できなかったピークは,すべて試験報告書に記載するこ とが望ましい」(下線河合)とされている.図4では観測されたすべてのピークに対して帰属がなされており,スペクトルの報告書として見習うべきものがある.ただし,縦軸は,As Lα線によって規格化されているようであるが,規格化の記述は見当たらない.

 縦軸のカウント数や測定時間に関しての記述が報告書にはない.強度が何カウントかという記述は,S/N比を示すので,例えば強度が1000カウントなら,1000の標準偏差のばらつき,すなわち±30カウントのばらつきがある.そういう点はこのデータから読み取ることができない.Asのsumピークという帰属のあるスペクトルと,サムピークの観測されないスペクトルがあるので,絶対強度は試料ごとに大きく異なっていたと考えられる.

 上述したように1万cpsを超えるとEDXでは数え落としも無視できなくなるので,測定時間と1秒あたりのカ ウント数cpsの両者を報告すべきである.縦軸の数値が取り除かれているが,図1の杉田氏らのように入れるべきである.後述の図9の瀬戸氏らや図10の鈴木康弘氏らによるXRFのようにフルスケールが違っていてもなんら問題ないので,フ ルスケールは掲載すべきであると考える.

図2 SEM-EDX分析によって検出された元素(1168による).

図3 亜砒酸標準品の2次電子像(1168による).

 測定時間は,例えば縦軸をカウント/100秒のような単位で示すことによって明示すべきであるが,そのような記述がないため,どのくらいの時 間, 1つの試料に電子ビームをあて続けたのかが不明であり,長時間のビーム照射によって元素が揮発する可能性についての評価ができない.学術 論文では電子ビーム照射時間の記述は当たり前であるが,裁判に提出された資料にはこの様な記述 がないことは今回初めて知った.また縦軸はリニアプロットであるが,一般には対数プロットまたは後述の中井鑑定や谷口・早川鑑定のように縦軸 を拡大したリニアプロットと併記することも必要である.特に元素が観測できないことを示すためには,対数プロットまたは拡 大プロットは必須である.

 As Lλ線と帰属されたスペクトル線に関しては, Lλ とはどういう線なのか記述がなく,またLλ線というスペクトル記号は一般には使われていない.おそらく PGTの EDX附属プログラムもしくはカメカの装置で自動的に帰属した結果であろうが,通常はL線と表記されるスペクトル線である.LλとLとは同じ線を表す場合もあるし,違う線をあらわす場合もある.LλはSommerfeld 6)のスペクトル記号で,5s→ 2p遷移とされており,Lαの高エネルギー側に出現するはずである.

図4 鑑定資料(1)と(7)のSEM-EDXスペクトル(1168 による).

 一方Siegbahn7)のスペクトル記号にはL線があり,は low frequencyを意味し, Cauchoisによれば3s→2p遷移8)である.ヨーロッパでは, L線をLλ線と書くこともあるのでL線をLλ線と表記しているのであろう.

 粉末試料は,カーボン両面テープに載せたで,さらに炭素蒸着を行ったようであるが,布のような大きな試料でも,また微小粉末試料ならな おさら,炭素蒸着しなくとも帯電は無視できる. なぜ炭素蒸着して貴重な鑑定資料を消費したのか 不明である.おそらく,絶縁性試料は必ず炭素蒸 着しなければならないという思い込みが多くの分 析者に広まっているためであろうが,これは間違った認識である.微量な粉末試料をカーボンテープに分散させれば,一般には炭素蒸着などの導電性処理は必要ない.

 和歌山県警科学捜査研究所野上氏らの鑑定書(1529)では日本電子製JSM5410LV型SEM-EDXを用いて測定したが,Au蒸 着した結果が示されているので,AuとAsの線が一部重なっている (As Kα = 11.7, Au Lα = 11.4 keV) . LV型は低真空SEMを意味する.低真空では試料の帯電をかなり防ぐことができる.絶縁試料で も,カーボンテープに載せるだけで,AuやC蒸 着のような帯電防止処理をしなくても帯電は軽微であり, 2次電子像が白っぽくなることはほとん どない.さらに低真空モードにすれば,反射電子 像だけしか観測できなくなるが,帯電を回避できる.発光X線スペクトルは試料が少なければ帯電してもほとんど強度は変化しない(面積の大きな ゴム板のような試料の場合には,帯電によって電 子ビームが試料をそれて散乱されるのでチャンバーの材質の特性線が出現する場合もあるので注 意は必要である9)) .我田引水になるが,最近,希釈イオン液体を用いて簡単に帯電防止する方法も開発された10).

 杉田氏の証言などによると,科学警察研究所 では,SEM-EDX測定は試料を消費する破壊分析ととらえられている. 弁護人「付着物の鑑定した際に5ミリグラムのかき取ったやつについてね,その処分をお聞きしたいんですが,結局どうしたんですか.」 杉田「使った資料は廃棄しました. 」 紙コップからかき取った5 mgの資料は,3つに 分けKBr錠剤としてIR測定,コロジオンで固定 してXRD測定,炭素蒸着してSEM-EDX測定を 行った.測定後の試料は廃棄されているが,絶 縁性試料でも炭素蒸着しないで測定し,測定後 は再鑑定のためにカーボンテープに張り付けたまま,試料台と共に保存するということも考慮すべきと思われる.実際にこの試料はSPring-8 などSR-XRF測定にも使えた可能性がある.

 いずれにしても杉田氏らや丸茂氏らの鑑定における発光X 線スペクトルは手本とすべき教科書的なスペクトルである.また和歌山の科学捜査研究所や東京の科学警察研究所の鑑定はAsを確実に示したものである.はなやかなSPring-8放射光蛍光X線分析結果に隠れて,これらの分析は目立たなかったが,重要な役割を果たした.

 SEM-EDXでは,Si, S, Caなどの軽元素が観測 された試料もあれば,観測されなかった試料も ある.これらの意味は十分に吟味されなかった. SEM-EDXは軽元素になるとSPring-8によるSRXRFよりも高感度である.SEMにSPring-8の放 射光を導入して同一試料を同一のSDD検出器で測定して比較すると,ClやSより軽元素側ではSEM-EDXのほうがSR-XRFより感度が良い.K, Ca, Tiの感度はSR-XRFとSEM-EDXとで拮抗する11).図512)は河合らが9 keVのSPring-8放射光を黄砂粒子1粒に当ててSR-XRFを測定した例である.SEM-EDXをSPring-8ビームラインに設置して測定した.どちらも検出器はSEMに取り付けた同一のSDDで測定したものである. 

図5 軽元素ではSEM-EDXの方がSR-XRFより高感度 であることを示す例(文献12)から許諾を得て引用).

図6 鑑定資料(1)~(6)の ICP-AESによって得ら れた微量不純物元素のレーダーチャート(裁判資料 1168 による).

この 図からわかるように,遷移金属(Fe)ではSR-XRF のほうが感度が良いが,Caで両者は同じとなり,Caより左の軽元素では,SEM-EDXのほう が SR-XRFよりはるかに高感度となることがわ かる. 9 keVのSR-XRFは,3d遷移金属元素以下の原子番号の軽元素に対して励起効率が高い.

 Mg, Al, Si, Kなどの軽元素になると,SEM-EDX の感度の方が優れているので,励起効率の悪い100 keVのSR-XRF測定では,信号強度が弱すぎ て軽元素測定には無力である.このような軽元素分析ではたとえSPring-8といえども分析感度 は,感度が悪いと言われるSEM-EDXに比べても 劣る.この点は,SR-XRFの意外な盲点である. SEM-EDXで検出されたSi, S, Caなどの軽元素が軽視されたのは,SPring-8で測定されたXRFスペクトルが示されたため,SPring-8 より感度が悪いと信じられていたSEM-EDXを再びじっく り見ようという意識がなくなったからであろう. SPring-8 は世界最高の放射光施設であるというイメージに惑わされた結果である.SPring-8の分析感度は決して高くない.

 丸茂鑑定の重要な点は,X 線スペクトルだけではなく,他の分析法(XRD, IR, ICP-AESなど) を総合的に組み合わせることによって異同識別に成功した点にある.特にICP-AESによる分析では, 図6に示すように鑑定資料および中国産など他の起源の亜砒酸と比較した微量5 元素のレーダーチャートの一致及び不一致によって, 犯行に使われた可能性のある亜砒酸の異同識別 に成功した点が重要である.このように,SPring8を用いるまでもなく,すでにICP-AESによって 最終鑑定結果と同じ結果得られていたことは 特筆すべきである.丸茂鑑定が意味するところは,ありふれた多数の分析法の組み合わせの方 が,世界最高といわれる1つの分析法に勝っている,という事実である.1つの分析方法に頼りすぎるのは問題が大きい.

 丸茂鑑定と比較したとき,SPring-8の放射光蛍 光X線分析では,Pb, Seが測定できなかったことは大きな問題である.PbはX線の遮蔽に使われているため,あらゆるスペクトルにPbが現れる. SeはAsの隣接元素のため,As Kβ(11.7 keV)と Se Kα(11.2 keV)が重なる.従ってICP-AESによる異同識別では図6のSe, Sn, Sb, Pb, Biの5元素が活用できたが,SRXRFでは,Sn, Sb, Biの3元素だけ しか異同識別に使えなかった.このために不確かなMo を使わざるを得なかったということができる. シンクロトロン・ビームラインはステンレスで構成されるので,Fe, Cr,Niが検出されることがあるという点も大きな問題である.

図7 鑑定資料の分析結果(裁判資料1168 による).

図8 重金属の分析結果(裁判資料1168 による).

 図7にICP-AESによって検出された全元素の定量分析結果を示す.図8には重金属の分析結果を 示す.図8の上部に示すように「資 料(1)は試料の量が21.9 mgとき わめて少ないため,1回の測定のみを行った」と書かれてる.紙コップから採取された29.1mg全 量のうち21.9mgを用いたのではなく29.1 mgのミスプリであろう. ICP-AESの試料調製に関して, 「前処理として鑑定資料(1)はその全量(29.1 mg)を 0.5 mlの濃硝酸を加え,加 熱溶解し,さらに超純水0.5 mlを加え,5分間加 温攪拌した後,0.5 mlの濃塩酸を加えた.溶液を 濾過し,不溶物を除去した濾液を超純水を用いて,2.9 mlとし,分析用溶液とした」と書かれている.ICP-AESが2.9 mlもの試料溶液を必要とし,しかも1回の分析ですべて消費しなければならないほどだったというのは本当だろうか.

 最近私の研究室で開発した1ワット(懐中電灯程度 のワット数)のX線管を用いるポータブル全反 射蛍光X線分析装置では1µlあればSPring-8なみの高感度分析が軽元素を除く全元素で可能なことを示したが,ICPではもっと少ない液量でも分析可能であるというコメントをよくもらう. 1990年代はICPでもミリ・リットルの液量が必要であったのであろうか.

 図 9に示したのは科学警察研究所の瀬戸康雄氏他7名による鑑定書(1160)のカレーの蛍光X 線スペクトル測定例である.フィリップス社製 PW1404波長分散型蛍光X線分析装置(Sc管,50 kV, 50 mA, LiF分光結晶,検出器はシンチレー ション・カウンターおよび比例係数管)を用いた測定である.

 スペクトルは,空容器の蛍光X線スペクトルをブランクとして測定した結果と,鑑定試料を測定した結果が掲載されており,注意して分析されていることがわかる.

図9 カレーの蛍光X線スペクトル(裁判資料1193による).

図10 WD-XRF スペクトル(1310による).

 しかし図9の縦軸を見ればわか るように,フルスケールが 200 kcpsとなっている点が気になる.As Kαピークは15万cpsである.比例計数管の場合,カウントレートが高すぎ ると,波高分布が低エネルギー側へシフトして数え落としが増大する13).また不感時 間による数え落としも無視できない.事実,Asのピークが比較的強いスペクトルでは, As Kα:Kβの正味(net)高さ が2.9:1であるのに対し,比 較的弱いスペクトルでは3.6: 1 となっている.高い計数率による数え落としや飽和がスペクトルの強度比を変化させており,定量プログラムにおいて数え落としの補正を正しく行っているのか疑問である.

 標準試料を用いて,図9のように1秒あたりのカウント数が高いスペクトルと,管電圧は変化させずに管電流だけを低減させて1桁, 2桁弱いス ペクトルを測定して,定量結果が変化しないか普段から確 認しおく必要がある.

 その他XRF,SEM-EDX分析とも,鑑定書には多数のスペクトルが報告されているが 以下では代表例だけを引用する.

 裁判資料1185丸茂氏らの鑑定書:X線マイクロアナライザーとして日本電子JSM-5800LV 型 SEM-EDX(15 kV, 10 nA, Na~U,「カーボン製試料台に張り付けた両面テープの上にのせ,炭 素蒸着を行った」).  裁判資料1303丸茂氏らの鑑定書:PW1404, 50 kV, 40 mA, LiF,「本測定条件におけるヒ素の検出下限は約4 µgである.」

 図10に鈴木康弘氏らの鑑定書(1310)から引用した蛍光X線スペクトル例を示す.この鑑定 書のスペクトルもフィリップスPW1404の WDXで測定したものである.分光結晶はLiFと だけしか記述されていないが,Asの2θ値から計 算すると2d = 4Åの分光結晶なのでLiF(200)で あることがわかる.2θ = 23°の不連続は上述した瀬戸氏のブランク測定でも出てきているので, どういう原因によるものか不明である.これら 2つのスペクトルを比較すると,Kα:Kβ比は, 全体の強度が弱いスペクトル(フルスケール10 kcps)ではKβの相対強度が弱く,フルスケールが200 kcpsの強いスペクトルでは, Kαが飽和で弱くなるためKβの相対強度が強く見える.数え落としは定量の際,正しく補正されているであろうか?

 科学警察研究所および和歌山県警科学捜査研 究所以外のX線分析として兵庫県警科学捜査研 究所二宮利男氏他4名の鑑定書(職権5号証)がある.兵庫県立工業技術センターの島津製作所 製SMX-160V Micro Focus X-Ray TV System (100 kV, 100 µA, 取り込み時間2秒)によるカレーの X 線透過像撮影と,その撮影像に黒色斑点として映った79粒子を取り出してセイコーインスツ ルメンツ製SEA5120により蛍光X 線測定した. X 線透過像は和歌山県立医科大学佐藤守男氏も 二宮氏の前に行っており,二宮氏の鑑定書に再 録されている.二宮氏らによる代表的な蛍光X 線スペクトル例を図11に示す.50 kV,1 mAの 管電圧,管電流.X線管ターゲットは不明.測定 時間10秒,有効時間は7秒であったり9秒であったりしており,これらはいわゆるreal timeとlive time に対応しているのであろう.

図11 ED-XRFスペクトル(二宮利男 鑑定書による).

 縦軸も横軸も 目盛りがないのでAs Kα,Kβという表示を信じるしかないが,それならスペクトルを表示する 意味はほとんどないようにも思える.蛍光X線 分析で検出できる元素としてはAs以外の不純物 元素がないことを示しているのであろう.dead timeが10~30%というのはX線管の出力がやや強すぎるような気がする.不思議なのはdead timeが大きい方(図11右)がKβが弱いことで ある.上述の瀬戸氏や鈴木康弘氏らの結果(図 9,10)とは逆の傾向を示している.

4. 中井鑑定

 中井鑑定書は請求番号1170のもので,表1に 示すように1170以外にも中井氏は数多くの鑑定 書を提出している.基本となるものは1170である.紙コップなどの資料番号は,表1のところでも触れたように,各鑑定人が独自の番号を振っており,その対応関係は簡単ではない.本稿では上述したように各資料の素性は問題にせず, スペクトルが妥当なものであるのかどうかを議 論する.どれが紙コップかというような点は考 慮しない.

 中井鑑定では,SPring-8とKEK-PFの2つの放 射光を用いて鑑定を行った.その実験条件を要約する.

 SPring-8での測定は1998年(平成 10年)12月 11日~13日,12月18日~19日である.ビームラインはBL-08Wウィグラービームラインで, 115keVの入射光を用いた.X線ビームサイズは 2 mm×2 mm,1 スペクトルの測定時間は2400 秒/試料,すなわち40分である.裁判資料に書 き込まれた手書きのメモには「通常5分ごとに計 測→和の平均を出すが」と書き込みがある が,証人尋問調書速記 録では該当する証言を 発見できなかった.40 分の測定に関して,5 分ごと,合計8回の測 定のばらつきはどの程 度であったのだろう か?X線検出器はGeSSDであった.

 KEK-PFでの測定は 1998年12月14日から16 日,ビームラインはBL4Aベンディング・マグ ネットからの放射光を単色化し,20~21 keV のX線を2 mm×2 mmのビームサイズにして検体に照射し, 1スペクト ルあたり2400秒 /試料で測定した.X線検出は Si(Li)および Ge SSDを用いた. これ以外に毛髪の長さ方向のAs強度測定も鑑 定書1232などに報告がある.1232の実験はKEKPF,BL-4A,12.2と12.9 keV,X線ビームサイズ 1 mm×3 mm,毛髪上の1 点当たりの測定時間 50秒,ステップ幅1 mm, Si(Li)SSD.中井氏の鑑 定書にはX線回折の報告もあるが本稿では扱わない.

図 12 代表的な中井鑑定のSPring-8高エネルギーX線励起蛍光X線スペクトル(1170) .

 図12に中井鑑定のSPring-8のスペクトルの中から2例を示す.AsのKα,Kβと入射光115 keV のコンプトン散乱によるものであろうか,95 keVにブロードなピークがわかる.この鑑定書にはコンプトン散乱という記述はない.拡大したスペクトルは,Mo, Sn, Sb, Biなどのピークが帰属されているが,帰属されていないピーク も多数存在している.

 丸茂鑑定のように,観測 されたすべてのスペクトル成分について帰属を行うのが正当な試験報告書であって,自分に都合の良い部分だけを選び出してその部分だけを 帰属するというのは分光分析としては問題がある.裁判で分光分析の素人を対象にしていると 思っているからであろうか,スペクトル線の帰 属が省略されているのが気になる.分光分析の 国際会議などでは,帰属されていなかったスペ クトル線を質問されて,間違った回答をしたとたんにその研究発表の信頼性が失墜するという ことは良く見かけることである.なおこれら帰属がなされていないスペクトル線は,一部は証人尋問で明らかにされている.また谷口・早川 鑑定書において詳しく帰属されており,またその帰属の根拠も明示されている.

 Moのやや高エネルギー側に強くて非対称な(低エネルギー側 にテーリングした)ピークが多くのスペクトルで観測されるが,Asのサムピークである.低エ ネルギー側にテールを引いているのは検出器の 応答関数に問題があったのかもしれない.一般 にSSDで測定されたピークの低エネルギー側に は,図13に示すように様々な要因による成分が重畳し,強い線の低エネルギー側の弱い線の帰属は不確実性が大きい14).図13はV K線を単色 化した場合に本来はシャープな1本の線が観測 されるはずであるが,低エネルギー側へテーリ ングする様子を測定したものである.

 Pappら15)によるとSSD検出器は個性があって,同じスペクトルを測定しても,低エネルギー 側テールはSSD検出器ごとに違ったスペクトルになるという.その例は文献15)のFig.2にプロッ トされている.また時間が経過するとテーリングの様子が変化する場合もある.SPring-8 で使い慣れない検出器を用いるとき,検出器の個性は大きな問題となる.

図13 V Kα単色スペクトルとVスペクトル全体を測定 比較したもの.単色スペクトルでも低エネルギー側には エスケープピークやテーリングが生ずることが分かる. 単色していないV から発生するスペクトルを測定する と,テーリングの様子も複雑になる.文献14)から引用

 中井氏のSPring-8のスペクトルではサムピー クが極めて強いことから,入射X線強度が強すぎたこともすぐにわかる.SPring-8 を使う必要はなかったのではないかとさえ思われる.検出器のデッドタイムがかなり長かったことも考えられる.元素の相関を調べる場合に,デッドタ イムの影響は果たしてなかったのかどうかという点は疑問である.30 keV以下の低エネルギー 領域でバックグラウンドが上昇しているが,こ の原因は何であろうか?検出器の効率の変化な のか,サムピークの影響なのか,特に記述はな い.Biの低エネルギー側の70~75 keVの2本のピークや,80~90 keVの2本のピークの帰属についてもスペクトルに帰属が表示されておらず,不親切である.バックグラウンドが滑らかでは なく,65 keV近辺にステップがある原因もわからない.生データがエクセル形式で公開されているが0 ~ 106 keVまでのデータしか存在しない.入射X 線エネルギー115 keVを越える測定データは必須であると思われるが,そういう データは存在しないのであろうか?もし存在しないならばデータとして不十分である.

 図 12 は As Kαのピーク高さで規格化してプロットしてあるように見えるが,95 keVのコン プトン散乱ピークの強度が異なる.Asの2倍の エネルギーに現れるサムピーク強度の対称性や半値幅も違うので,a.u.(arbitrary unitsの略)と 表示があるように任意強度として示したスペク トル強度は絶対値ではどの程度の違いがあるのか気になるところである.なぜならピークが1万 cpsと100 cpsとでは,スペクトル形状が同じだ からといって,もしもX線が照射されている部 分の試料量が同程度なら,異同識別した際,同じ ものとは言えないからである.任意単位とする 場合には,数値を入れるべきであるが,強度の目 盛りが入っていないのも気になる.任意単位とは,数値の単位を任意に取ってよい,という意味 だからである.鑑定書の場合には,単位が任意で よいとは思われない.115 keVの入射光の弾性 散乱ピークがスペクト ルのプロットの範囲外になっているが,As のピークで規格化した際に弾性散乱ピーク強度は,各測定で同程度の強度だったのかどうか,という点も気になる.

図 14 同一粒子の場所の違いによるXRFスペクトルの違い(1170) .

 図14は「同じ資料を測 定箇所を変えて測定した」ものである.図14の中の「図4-(2A)」と「図 4-(3A)」はカレー内から発見した粒子「鑑定資料10-1」の異なる場所を 測定したものであるという.1個の試料粒子の異なる部分に入射光が照射されているために異な るスペクトルが得られていると解釈されている (第34回公判証人尋問調書pp.78-79).SPring-8の 供用開始後しばらくの間,ビームは不安定で,突然強度が強くなったり弱くなったり,ビームラ インによってはビームの位置が突然に数cmも移動することもあったので,そういう時間の経過 に伴うビームラインの状態変化を本当に除外で きて,試料上の位置の違いだけによるスペクトルの違いであるということができるのか疑われ る.同一の試料粒子の繰り返し測定結果がこの程度異なったという可能性も否定できない.一 般に X 線強度や位置が不安定などというネガティブなビームの状態はSPring-8関係者以外には開示されない.理想的な状態のビームを使お うと SPring-8へ行って実験し,失望するユー ザーも少なくない.

 KEK-PFの測定結果を図15に示す.PFでは広 いスペクトル範囲を測定したと思われるが,主 に17.4 keVのピーク,Mo Kαのみを示している. Mo Kαの約1/10の強度のKβ(19.6 keV)はどこにあるのだろうか?20 keVまで上昇するX線は入射光であろうか,そのコンプトン散乱であろ うか,あるいはAsのサムピークであろうか.測 定されたどのスペクトルにもはっきりしたKβは 観測できない.Moという帰属は間違いないもの であろうか?

 1つのスペクトル線のみから帰属するのは,特に,判決に影響する重要なピーク としては別の分析法・装置やビームラインとあわせた総合的な分析結果によってのみMoの存 在が証明できるというべきである.入射X線エ ネルギーを変化させて,MoのKαもKβも観測できるような入射X線エネルギーを選ぶべきであったのか,あるいはAsのサムピークが干渉して多量のAsが存在する中での微量Mo分析はかなり無理があるというべきなのかは,示されたスペクトルが部分的なために判断できない.Mo ピークの存在が有罪判決の重要な決め手となっ たようなので,Moピークの分析は慎重であるべきであった.この点は,谷口・早川鑑定では,卓上型EDXRFによるMo LαとSR-WDXによる Mo Kα1, Kα2 測定によって,Mo の存在が確実なものとなった.

 丸茂鑑定のICP-AESで消費してしまった紙 コップ付着粉末の追実験が,コップにわずかに付着した中から0.1 mg以下の試料を採取して追実験することが中井鑑定の目的であった.中井鑑定では,丸茂鑑定でBiなどが検出されたということを知った上でビームラインの選定を行っ た.中井鑑定で帰属されたピークはMo以外は丸茂鑑定を裏付けるものであり,他の重要でな い2次的なピーク(サムピークやコンプトン散 乱ピーク)に関して記述がない.丸茂氏の鑑定 結果を知った上で確認実験を行ったものである.中井鑑定の新しい発見はMoの発見である. ただしこれはKEK-PFでの結果である.SPring8 でもMoらしきピークは見えるが,励起断面 積が小さすぎて信頼すべきデータとは言えない.

 1回の分析から結果を出すのは誤差要因から問題があるが,丸茂鑑定におけるICP-AES分析では紙コップ付着粒子は29.1 mgの全量を1回の分析で消費してしまい,2度目の実験ができなかった.中井鑑定では,紙コップに付着した0.1 mg以下の試料から丸茂鑑定のBi, Pb, Sb, Sb, Snの中からBi, Sb, Snを検出できた点は SPring-8の実験の成果である.またMoを新たに発見することができた点はKEK-PFの成果である.

 通常広く信じられているような,犯人逮捕につながる決定的な分析は,SPring-8で初めて得 られたわけではなく,すでに丸茂鑑定による ICP-AES分析で出されていた.この点,丸茂鑑 定をもっと高く評価すべきであると考える.丸茂鑑定は5元素の濃度のレーダーチャートが一 致することを示しており信頼性は高い.

 43回公判の中井氏の証人尋問調書によると上で議論した疑問点が明らかになる部分が多い. 中井氏の証人尋問調書の速記録は,第34, 42, 43 回公判の速記録がある.それぞれ,208, 162, 240 ページからなる長大なものである.43回公判の 速記録から一部分だけを以下の図16~26,図28~32に抜粋する.

図16 第43 回公判の速記録pp.33-34.

 図16の段落が高い文章は弁護人,1段低い文 章は証人の発言である.弁護人が「砒素も,その120なんぼという高いものでも出てくるん じゃないですか」と言っているのは,入射X線 エネルギーが115 keV ということである.毛髪 中のAsのppmが「極めて少ない量」としているが,ppmすなわち100万分の1程度の重金属濃度 の分析は現在,片手で持てる1WのX線管を用いた装置で分析可能である16).1Wのハンドヘル ド型蛍光X線分析装置で,日常的に輸入プラス チック玩具中のAs, Cd, Pbなどの有害元素が分析されている.この点からも分析化学的には決 して「極めて少ない量」とは言えない.

図17 第43回公判の速記録 p.35.

 図17時間がないし,測定すれば出てくるのは自明だから測定しなかったという回答は科学者と しての発言としては問題が多いことは誰にでも わかることである.

 前節の図512)は,すでに説明したように,河合らがSPring-8にSEM-EDXを導入して同一試 料を電子ビームとSPring-8のX線との2種類で励起して測定したスペクトルの比較である.図 5 の入射X線エネルギーは 9 keVで,中井鑑定の115 keVに比べれば十分に低いX 線エネルギーでも,Kより軽い元素では電子ビーム励起 の方が感度が良い.従って,SEM-EDXで検出できてもKEK-PFでは検出できない場合もあるし, KEK-PFで検出できてもSPring-8で検出できな い場合もある.

図18 第 43 回公判の速記録pp.58-59.

 図18ではICPとSR-XRFとを比較しなかった 理由が述べられている.放射光蛍光X線分析では,定量という数値化をせず,ICPとは比較できない,ということである.SR-XRFでも定量分析すべきであり,定量値を求めなかったのは分析として問題がある.蛍光X線分析では,励 起断面積を用いても定量値が得られるし,コンプトン散乱を内標準としたり検量線を用いても定量分析は可能である.また濃度が既知のBiなどを混ぜて類似の標準試料を自分で作成し,検量線を引くなどしても定量値を求めることができる.電離断面積や蛍光収率など(これらをファンダメンタル・パラメータと呼ぶ)をデー タベースで調べたり,量子力学計算で求めて,検出器効率のエネルギー依存性などを考慮すれば,リファレンス・フリーの定量分析も可能である.

図19 第 43回公判の速 記録p.64.

 図19で「八番」というのはSPring-8のビームラインBL-08W と言う意味である.コンプトン散乱実験などに用いるための100 keV以上の高エネルギーに向いたウィグラービームラインである.シンクロトロン放射光を使って分析する 場合には,あらかじめ未知試料の概略が分かっている必要があり,完全に未知な試料の場合には,見当はずれのビームラインを選択する可能性が大きいことを示唆している.和歌山砒素事件の場合には,あらかじめBi等を含んでいることが分かっている必要があった.

図20 第 43回公判の速 記録p.103.

 図20において,「ピークで30.3」というのは 30.3 keVのピークという意味である.「検出器によっていろいろ偽のピークが出たり」するので,上でJIS規格を引用したように,スペクトルのピークの帰属はすべてのピークに対して行うべきで,どうしても帰属できない不明のものについてもそれを明示すべきである.このピー クについては別のスペクトルに関して, 図21 のようにサムピークではないかと回答している.

図22 第43回公判の速記録pp.112113.

図23 第 43回公判 の速記録p.118.

 半導体検出器は,アンプの定数の決定が難 しく,少し変化させただけでもピーク位置が変 化したり,偽のピークが出現したり,強度比が変化する.ピーク位置の変化,偽ピークの出 現,相対強度比の変化が電気回路定数を変化させるだけで生じるという実例を参考文献17)に例示した.オシロスコープで十分に調整したう えで測定する必要がある.また測定が長時間に わたる場合には,半日おきに基準スペクトルを 測定しエネルギー校正などを行っておく必要がある.

 図22で洗剤や汗などからのPの汚染があるという可能性は否定できないが,だからと言って分析する必要がないということにはならない. 丸茂鑑定では図7に示したようにPの濃度として ICPで5ppm[資料(2), (3)]~ 516ppm[資料 (7)]という分析結果を得ている.

 図23は図18,19の繰り返しになるが,「アンチモンとビスマスがあるという話は聞いております」と言うようにどの元素を分析するかがあ らかじめわかっていなければ,シンクロトロン施設の選択や,ビームラインの選択ができなかったと言うことがわかる.

図24 第43回公判の速記録 pp.118-119.

 図24での質疑応答で明らかになるように,丸茂鑑定のICPで簡単に検出できたSeは, SR-XRFでは主成分AsのKβに重なって原 理的に分析できないことがわかる.

図25 第43回公判の速記録pp. 127-129.

 少し長いが,弁護人と証人のやり取り を速記録から3ページに渡って抜粋したものを図25に示す.蛍光X線分析は本来元素定量分析法であるが,定量結果を出していないために苦しいやり取りが続いている.「ビスマスのピークはアンチモ ン,スズと比べて数倍高い」と言う表現 が問題となっている.「数倍」というあいまいな表現や「パターン認識」だから有罪だとされたら,有罪にされた方も納得できないであろう.鑑定ではそういうあいまいさは残すべきではない.パターン認識とは端的に言えば,丸茂鑑定における図6のレーダーチャートである.丸茂鑑定は明快である.

 図7に示すように丸茂氏の鑑定結果では,鑑定資料(1)では,Na 393ppm,Mg 16 ppm,Al 138ppm,Fe 146ppm,Se 111ppm,Sn 25ppm,Sb23ppm,Pb 180ppm,Bi 55ppm,Ca 79ppmというけっして微量ではない濃度の定量値が得られている.他の鑑定資料もほぼ同様の濃度なので, SPring-8 でなければ分析できない,という濃度ではない.紙コップの付着資料のみ,ICP-AESで消費してしまったので紙コップに付着している程度しか残されなかったが,それでももう一度ICP分析が可能な量である.

図26 第 43 回公判の速記録pp.131-133.

図27 弁護側が中井氏の 生データをプロットしなお したスペクトル(弁2号証 による).

 図26は,弁護側が中井氏のスペクトルをエクセル形式の生データで得て,プロットしなおしたもの(図27)についての証人尋問である.図 27と図12,14を比較すると,弁護人が出した図27 のプロットの方がずっと見やすいことが分かる. X 線分光に詳しい支援者が弁護側についていたはずである.中井鑑定は全 体に,弁護側は素人なので 「数倍」,「パターン認識」と言うようなあいまいな表現で押し切ろうとしている印象を受けるが,裁判では専門家として誠意を尽くした回答をすべきであろう.

 証人が「こういうような 法廷ではむしろパターンで,一般の人が御覧になっても分かるような形で,明白に結果を出すのがいいと 思いましてあえて数値化し なかったということです」 と述べているが,文書化や数値化は分析化学にとっても重要である.

図28 第 43 回公判の速記録pp.125-126.

 図28で「もし弁護士さんがそういう作業をなさるな ら,…」という発言は,専 門家にしかバックグラウンドを引くことはできない, 素人がバックグラウンドを 引いても信用できないという主張であろう.しかし,バックグラウンドを引く場 合,個人差がでる方法で引くべきではない.文書化して曖昧さが残らないようにするべきである.この点で, 後述するように早川鑑定で 行われた曖昧さのないバックグラウンド決定及び定量化があって初めて蛍 光X線分析結果は裁判において説得力を持つことができたと言うことができる.

図29 公判の速記録 pp.144-145.

 図29で,弁護人が「モリブデンとスズ,アンチモンを比べなかったのはどうしてなんでしょ うか.」と質問したのに対して「こういうような 高いバックグラウンドの下で,微量のモリブデンの有無を比較するのは適切ではないと判断したからです. 」という回答からわかるのは,Moの 有無の判定は非常に大きなあいまいさが入る余地があることを意味している.

図30 第43回公判の速記録pp.137-138.

 図30で問題にされているバックグラウンドの変動に関しては,早川鑑定では,後述するよう に,直線のバックグラウンドの積分強度をデー タの信頼性を示す指標として使っている.

図31 第 43 回公判の速記録p.221.

 図31の議論はMoに関するものである.KαだけでなくKβも存在しなければ,元素の存在を断言することはできないが,その点が図15では問 題となる.「拡大すれば見えていると思いますけれども,小さいところがそれに当たると思いま すね.」とあるが,Kβの存在は図15だけからは明らかではない.谷口・早川鑑定では,波長分散方式でMoを測定したので,Mo Kα1とKα2の ダブレットが明瞭に観測できてMoの存在証明 に成功した.

 もし学生が卒論や修論の実験でMo Kαの1本 のピークだけからMoの存在を結論したら,Kβ, Lα,Kα2 なども確認するように指導する.またSIMSなど別の分析法も用いるように指導する. パターン認識やMoの特性線が1本しか出ていな いという証人尋問を聞いていた人は誰もが(被 告人も含めて)有罪の立証は無理だと思ったで あろうことが,速記録を読むと法廷にいるように感ずる.それを何より証明する事実は,裁判 官が谷口・早川鑑定が出た時点で,補足として Moの部分拡大スペクトルをプロットしてほしい と要請したことが示している.もしKβ, Lα, Kα2 などのうちのひとつでも出ていないことが証明 できれば,判決は逆転する可能性があったからである.谷口・早川鑑定では,Kβはサムピークに隠れてやはり観測できなかったが,卓上型蛍 光X線装置ではLαが,波長分散型シンクロトロ ン蛍光X線分析ではKα2が観測できたので,Mo の存在証明ができた.

図32 第43回公判の速記録p.222.

 図 32 の議論からわかるのは,弁護人もサム ピークをよく理解していることである.現在な らSDD を用いるので,SSDのようなスピード の遅い検出器によるサムピークはそれほど強くは現れないであろうが,当時はSPring-8の見解 として,SDDでも本質はSSDと同じで高計数 率には対応できない,という見解であった.これは後に間違いであることが示された.ただし SDDは半導体の厚みが薄いので,高エネルギー X線に対しては検出効率が悪いという点にも気 をつけるべきである.通常の蛍光X線に比べてサムピークが強く出てくる分析法は,サムピー クより弱いピークについてその存在を主張しづ らくなる.3光子のサムピークも出ているはずである.

5. 谷口・早川鑑定

 中井鑑定でX線スペクトル表示方法や分析結 果の表し方について苦言を述べたが,谷口一雄氏 と早川慎二郎氏による共同鑑定では,中井鑑定の問題点がすべて明確にされており,この意味で優れた鑑定結果である.鑑定書の末尾には,用語の 説明として,「放射光」,「原子の励起と緩和」,「蛍 光X線」,「特性X線」,「エネルギー分散型蛍光X 線分光法」,「波長分散型蛍光X線分光法」,「蛍光 X 線強度の資料厚さ依存性」,「半導体検出器」, 「妨害ピーク」,「エスケープ・ピーク」,「サムピー ク」,「検出下限」,「バックグラウンド」,「積分強 度(グロス,ネット)」, 「X 線の散乱(コンプトン 散乱,レーリー散乱)」という項目が各1~2ペー ジで説明されており, X線の教科書としても使えるほど親切な鑑定書である.総ページ数は 350 ページあり,鑑定書としては異例の長さという.

 中井鑑定は急いでなされたものであり,犯人逮捕を目的とした分析であったため,その粗雑 さは致し方ないというべきかもしれない.裁判 における証拠能力という点では,中井鑑定は上 述したように問題が多い.もし弁護側がX線分 光について良く理解した上で,谷口・早川鑑定 を使わずに中井鑑定のみで反論したとしたら, 判決が覆っていた可能性も否定できない.しかし,弁護側が要求した谷口・早川鑑定は,形式的には平成13年7月13日付けで和歌山地方裁判 所裁判官から命ぜられたものであるが,中井鑑 定を定量的なものへと高精度化し,しかもデー タの信頼性に関する指標を伴って示したもので あり,4節のいわゆる「パターン認識」のよう な任意性の入り込む隙のない,信頼できる分析 結果を与えた.この鑑定では,図33の4点につ いて鑑定を命じられたということである.

図33 鑑定を命じられた事項(谷口・早川鑑定) .

 「鑑定書」は当初平成13年11月5日付で作成された後,裁判官から,鑑定資料6から9について鑑定資料1から5と同種のものであるかどうかの判断を主文に加えてほしいという要請を受けて, 「鑑定書(補充)」を 11月15日付けで作成した. バックグラウンドは,谷口氏によってスペクト ルの30点を曲線で結んだものであったが,「鑑定 書」作成段階ですでにその問題に気づいた早川 氏がピークの両側各5点の平均を直線で結んだ ものにしなければ定量結果の誤差が大きいので, 「鑑定書(補充)」作成時にバックグラウンドを直線に変え,その後「鑑定書(訂正)」を 11月22 日付で提出したものである.

 このような厳正な スペクトル処理は,弁護側の意に反して,逆に 判決をゆるぎないものとした.化学分析は,事実を示すものであり,最初から誰かを犯人にする目的で恣意的になされるものではない.その意味で,弁護側鑑定を緻密に検討し,Moのスペ クトル部分の拡大などを谷口・早川鑑定の追加として要求した裁判官の判断は,X 線分析を正しく理解した結果である.化学分析は中立であり,正しい分析は正しい判断のために必須なも のである.

 谷口・早川鑑定書が出たとき,裁判官が真っ先に知りたかった点はMoの存在が証明されているかどうかであったと思う.

 早川鑑定は,SPring-8 ビームラインBL-08 W (116 keV,Ge検出器,測定時間1000秒,一部3000 秒)および BL-39XU(23 keV,LiF(200)波長分 散型,標準試料10 µm厚Mo箔,ビームサイズ水平1 mm×垂直2 mm,蛍光 X線の試料からの取り出し角 10°,Mo Kα1 = 10.138°(θ),Kα2 = 10.200°,結晶は固定しシンチレーションカウンタを1°/50で21ステップ走査,1点90秒,弱いものは90秒4回,または1点200秒測定)である.測定の実験配置を図34に示す.

図 34 測定の実験配置(谷口・早川鑑定).

図35 同一資料の違う部位のスペクトルの異同を測定した例.ビームの位置は写真の丸印.(谷口・早川鑑定) .

 図 35 にはBL-08W の116keV 励起の測定スペクトルを示す.これは「鑑定資料4」を測定した結果で,「鑑定資料4」だけは「同一資料で場所 を変えて測定を行った」.異なる場所5箇所を測 定し,同一試料中で違う場所のスペクトル変化 を調べた.シンクロトロン・ビームが照射されている位置は,図35の写真に○印で示されてい る.図36は図35の2つのスペクトルから30点 を通る曲線バックグラウンドを差し引いたスペ クトルと,その一部拡大スペクトルである.

図36 図35の2箇所のスペクトルの曲線のバックグラウンドを引いたスペクトルとその一部拡大スペクトル. (谷口・早川鑑定).

 図 35や図36では並んで示したフルスケールが少し 違っているのでスペクトルの絶対強度が測定場 所の違いによって異なることが分かる.あるいは入射光が指数関数的に減衰してゆく影響が出 ているのかもしれない.スペクトルの全体的な形はよく似ている.これらのスペクトルは後述するように試料による自己吸収の大きさに応じて,元素ごとにレーリー散乱またはAsピークによって規格化して定量結果を算出した.対照資 料の中にはサンプリングごとに大きく異なる定 量結果が得られた資料もあり,後で引用するよ うに,その分析結果の取り扱いには注意したと言うことである.

図37他の拡大スペクトル.(谷口・早川鑑定).

 図37は別の試料の拡大図である.サムピーク がなぜ出現しなかったのか鑑定書だけからは理解できなかったが,検出器の構成元素Ge Kα線 (9.9 keV)の分だけ強い線(Ba)から離れたエスケープピークも帰属されている.エスケープ ピークはどの線にも出現するし,Kβ 線エネルギーだけ離れたエスケープピークも弱いが出現するので実際には複雑である.このスペクトルは他のスペクトルに比べてピークの低エネルギー側 のテールもない.縦軸のフルスケールが3500カウントなので,カウントレートが低いため,テー ルがなくなり,サムピークが現れず,隠れていた エスケープ・ピークがみえるようになった.

 As KαとPb Lαは同じエネルギーのためにピー クが重なるため,その定量ではPb Lβを使わな ければならない.Pb Lβの強度からその装置に固有なPb Lα:Lβ強度比を用いてPb Lαを知り,そ の強度をAs Kαから引くことによってAs Kα強 度を求める.Pb LαとLβの強度比は,装置だけではなく,スペクトルの測定条件によっても大 きく変化する18).文献 18)は2007年の出版で,鑑定の後で広く知られることになった現象である が,谷口・早川鑑定のころでも標準試料を用いて Lα:Lβを求めておくことは普通に行われていた.

図38 BL-39XU で測定したMo Kα1,2 スペクトル.(谷口・早川鑑定).

図39 セイコーインスツルメンツ製SEA5120卓上型 EDXRF装置によるスペクトル測定例.(谷口・早川鑑定).

 図38はBL-39XUで測定したWDXスペクトルである.S/Nは悪いが,横軸21チャネルの範囲で Kα1:Kα2=2:1の実線のスペクトルが得られて いる.この様にKα1:Kα2=2:1のスペクトルが 測定できたことからMoという帰属が初めて確かなものとなった.しかし,測定によっては横軸がずれているスペクトルがあるので,分光器の再現 性に問題があったこともわかる.また横軸がエネ ルギーに変換されていないため,スペクトルの半値幅が変化している理由もよく分からない.

 谷口・早川鑑定では,兵庫県警科学捜査研究 所二宮利男氏の鑑定書と同じセイコーインスツ ルメンツ製卓上型SEA5120によっても蛍光X線 測定しており,図39はその一例である.Mo Lα 線が鑑定資料から測定されており,Mo管を用い ていない装置なら,Moの存在が証明されたということができる.

図 40 Sn,Sb,Biによるレーダーチャート. (左) 最初の谷口・早川鑑定, (右)バックグラウンドを直線に変 更して定量値を出しなおした後のレーダーチャート. (谷口・早川鑑定).

 図 40は図 6 で示した丸茂鑑定のレーダー チャート図に対応する.丸茂鑑定では5元素五角 形であったが,谷口・早川鑑定では3元素三角形 で,信頼性は丸茂鑑定に比べて低い.しかし,バックグラウンドをスペクトル上の30点を結ぶ曲線から,各ピークの両側を直線で結ぶ方式に変更したことによって,特にSnのばらつきが小さくなっていることがわかる.直線バックグラ ウンドによって鑑定資料1~5の異同識別がより 確実になった.

 試料は160 µm厚さ相当のペレットを作成し, 透過力の高いBi,BaはX線に対して薄試料, 透過力の低い b,Sn,MoについてはX線に対する厚さが無限厚さの試料として定量分析した. Bi,Ba蛍光X線強度はレーリー散乱(116keV)で規格化し,Sn,Sbの蛍光X線強度はAs蛍光X線強度で規格化した.ICP-AESによる定量値と,規格化された蛍光X線信号強度を用いて検量線を作成した.その直線性については公判において図41のような質疑があった.

図41 第 84 回公判の速記録p.5.

 検出下限を濃度0におけるバックグラウンド積 分強度の標準偏差の3倍とした.BL-08Wでの検 出下限は以下の通りである(単位はmg/kg) :Mo 118;Sn 2.2;Sb 3.2;Ba 0.5;Bi 1.3.またBL-39XU でのMoの検出下限は5mg/kg(すなわち5ppm)で ある.どの検出下限もシンクロトロン放射光と いうイメージから思うほど良くはない.

図42 第 84回公判の速記録p.7.

図43 亜ヒ酸中の微量元素特性X 線の厚さによる強 度変化.(谷口・早川鑑定書).

図 44 第84回公判の速記録pp.17-18.

図45 鑑定書(補充)添付の補Ba18 鑑定資料7のスペ クトルと第 86回公判の速記録 pp.15-16.

 料厚さ依存性を図43に示した.図44~50を第85,86,88回公判の速記録から抜粋して示す.谷口・早川鑑定が非常に慎になされていることを示すものである.SR-XRFから得られた定量分析値について, 図44のような質疑応答がなされている.ここで mg/kgはppmと同じ意味である.バックグラウンドとして,30点を通る曲線か ら,ピーク両端を通る直線へ変更した理由は図45の証言の通りである.

図46 第 86回公判の速記録p.26.

 定量分析に用いた検量線法の説明は図46の証言の通りである.Sn,Sb,MoはAs強度で割り算し,Bi,Baは入射SR光の弾性散乱ピーク(レーリー散乱ピー ク)強度で割り算した.その理由は図47の通りである.同じ体積の試料でも,厚くて小面積のものと, 薄くて大面積のものがあったとき,定量値を正 しく求めるための理由も説明されている.

図47 第87回公判の速記録pp.15-17.

図48 第87回公判の速記録pp.33-34.

 分析値のばらつきが大きかった試料に関してどのように分析値を扱ったかは,図48のように 説明されている.

図49 第87回公判の速記録p.45.

 図49ではMoの検出ができるかできないかは, ビームラインの選択にかかっており,適切ではないビームラインを選択するとMoが検出でき なかったかもしれないという点が議論されている.この点は図17の証言と比較て読むと,谷 口・早川鑑定が慎重に計画されて実験されたことが良くわかる.

図50 第87回公判の速記録pp.56-57.

 試料の厚さは, (レーリー散乱強度)/(As蛍光 X 線強度) から求められることが, 図50に説明されている.

6. おわりに

 本稿の結論はすでに第1節で述べた.

 中井鑑定は,谷口・早川鑑定に比べると大雑把なもので,その分析結果の信頼性は,専門的に見ると高くはない.

 もし弁護側が中井鑑定の穴

(例えば ① 帰属されていないスペクトル線の 起源,② 同一試料から得られた検体間のばらつきの大きさ,③ 出所の異なる試料間の差異の大 きさ,④ シンクロトロン放射光を別の日時に測 定したり,別の測定者が測定したためのデータ のばらつき,⑤ テーリング,⑥ レーリー散乱 ピークの欠如,⑦ 定量値の欠如,⑧実際のカウ ント値の欠如,⑨ Moのスペクトル線が1本しか 観測されていないこと,など)

について反論をおこなったとすれば,「パターン認識」で異同識別を行ったという結果は覆る可能性も大きく,判決の内容が正反対となった可能性も考えられる.

 犯罪現場からのサンプリング(試料),検体(または試験片)間の異同,異なる日の測定による変 動,異なる分析者による変動,ビームラインの相違によるスペクトルの変化など分析研究者な らあって当たり前の変化が,無いと仮定して示 された結果は信頼性に問題がある.スペクトルはいつも同じ結果が得られるとは考えられない.

 一方,谷口・早川鑑定は,同一試料の位置の違いによって,スペクトルすなわち分析結果がどのように変化するのかなど,データのばらつきの範囲を詳しく調べ,その差はけっして小さくはないが,出所が異なる試料はさらに有意な差異があることを示した.裁判官は谷口・早川鑑 定の重要性を見抜き,Mo部分の拡大スペクトルを要請して,当初含まれていなかった決定的な有罪の証拠をスペクトルの中から見つけ出すことに成功している.分析結果を十分に理解して用いた裁判官の判断が正しかったと考えられる.

 早川氏は,100 keVを超ええる高エネルギー蛍 光X線分析法の新しい手法を確立したと言うこ とができる.論文として出版されなかったのは惜しいが,いまやSPring-8の分析では,レーリー散乱で割り算するなどの手法が,誰にオリジナリティーがあるかという文献引用もなく,日常的に当たり前に使われている.

 谷口氏の証人尋問において,「類似」を「同種」 へ訂正する場面がある.その後この用語の意味 の違いをめぐって長時間を費やしている.再審 弁護団へX線分析データのレクチャをした際に, 最初の質問は,分析化学では「類似」,「同種」, 「同一」などの定義はどうなっているのか,と言うものであった.分析化学の分野にはそのよう な用語の定義は無い.

 X 線スペクトルを裁判に用いる場合,丸茂鑑 定のX線スペクトル表示は,すべての観測ピークを帰属しているという点では見本となるべき ものである.

 谷口・早川鑑定は,シンクロトロン放射光における同一試料の位置の違いによる分析値のばらつき, 2次的なサムピーク,エスケープピーク, バックグラウンドの引き方など,慎重に検討して分析結果を得ており,その信頼性はきわめて高い.証拠物品の異同識別に関して信頼できる 結論を得ている.鑑定書のページ数が長大で弁護側も検察側も十分消化できなかった可能性がある.

 SPring-8の放射光蛍光X 線分析が注目されたため,ICPで分析した軽元素,特にAsと同族のPや混ぜ物とした小麦粉,セメントなどの構成元素である軽元素の分析が軽く見られることに なった.判決文は入手しなかったので詳細は不明であるが,SPring-8で,しかもBL-08Wという 高エネルギーX線ビームラインで分析できる元素だけが最終的に証拠として重要視された可能性が高い.放射光蛍光X線は特に感度が良いわけでも,試料量が少なくすむ唯一の分析法でも ない.元素分析法に限ってもICP-MSやSIMSな ど,代替分析法が多い.蛍光X線分析法を専門 とする私としては複雑な心境であるが,放射光 蛍光X線でしかも1つのビームラインで分析した結果だけからは確実な分析結果を得るのは難 しい.

 シンクロトロン放射光を用いる鑑定の問題点は次のように列挙することができる.

(1)ビームラインの適切な選定は,あらかじめ 目的の元素が分からなければできない.
(2)1 つのビームラインは万能ではなく,その ビームラインでもれた元素が重要な役割を果 たす可能性がある.今回はSeやPbが測定できなかった.
(3)シンクロトロン放射光で測定できなかった 元素を軽視する傾向があった.今回は軽元素 を軽視する傾向があった.
(4)シンクロトロン放射光の検出下限は他の分 析法と比較しても決して良くはない.今回の 検出下限はppm.ICP-AESではppb,pptなどまで分析できる.
(5)シンクロトロン放射光の定量方法はまだ十 分なノウハウが蓄積されていない.本稿がノ ウハウ蓄積の一助になればと思う.
(6)強い入射光のために,サムピークも強く,重 要なピークの妨害となる.今回はMo KβがAs のサムピークのテールに重なった.
(7)シンクロトロン放射光は複数のビームライ ンで測定が必要となったとき,ビームタイム を必要に応じて取ることが難しい.
(8)シンクロトロン放射光での実験は,実験終 了後には実験配置をいったん解体するので, 再現性の良い実験ができない. などの問題がある.


 2006年パリで開催されたEXRS(European Conference on X-Ray Spectrometry)会議では,シンクロトロン放射光の初期に,化学分析に応用 したChevallier教授を記念してシンポジウムが行 われた19).その中でリスボン大学のMaria Luisade Carvalhoは,ナポレオンI世の毛髪を分析する際に毛髪を1本紛失して大騒ぎになったという 講演をした.毛髪はシリンダー型で,測定結果は解釈が難しいと言うことである.また生前,死 後の毛髪外部の影響によって変化し易いために 注意が必要だと言うことである20).ナポレオンI 世の毛髪は1960年代初頭に,中性子放射化分 析されており,10~38ppmあったことからAs中 毒とされたが,20年後に行われた分析では,As は正常値でむしろSbが高い濃度を示した21).中 性子放射化分析ではAsと Sbの分離が難しい. Chevallierら19)の分析結果では再び高い濃度の Asが検出されたが,Carvalhoの言う様に,死後 の保存状態による可能性もあってナポレオンの 死因とすべきかどうかは難しいということのようである.中井氏の毛髪中の砒素の分析については詳細は述べなかったが,中井氏は自身の毛髪に砒素をこすりつけて数ヶ月間通常の生活を した後,毛髪のAsが放射光によって分析できたという画期的な結果を示した.外部からこすり 着けることによってAsと毛髪との間に化学結合が生じたことを示している.毛髪は断面の元素マッピングもシンクロトロン・マイクロ・ ビーム分析で可能になっているので,そういう 分析によって中井氏の分析がどういうものであったのか詳しく調べる必要があると思われる.

 ICP 分析が大きな役割を果たしたことを述べ たが,最近は1ワットのX線管を用いる小型ハ ンディー型全反射蛍光X線分析装置でも1pgの 絶対検出下限が得られることが示され,SPring-8 で得られたfgにあと3桁まで迫るところまで来 た22).全反射蛍光X線分析でも,ICPと同様に試料は水溶液とするが,試料台に滴下乾燥して測定するので,その試料の永久保存が可能となる.プラズマ中で試料を燃やしてしまうICP法に替わる方法となるのではないかと思っている.

 「パターン認識」という言葉が素人用法で裁判に頻出したが,パターンの一致度を数量化する研究は古くから行われている.たとえば樹状 図(dendrogram)を用いる統計的な手法もある 23).こうした手法が使われなかったのは不思議である.

参考文献

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9) 本号の酒徳らの論文参照.
10) 澤 龍,今宿 晋,一田昌宏,河合 潤:希釈イオ ン液体による絶縁性試料の高倍率におけるSEM 像観察およびEDXによる組成分析,表面科学,32,659-663 (2011).
11) 河合 潤,石井秀司:SEM-EDX- SR-XRF
XANES, J. Surf. Anal., 12, 384-389 (2005).
12)  J. Kawai, H. Ishii, Y. Matsui, Y. Terada, T. Tanabe, I. Uchiyama: Risk assessment of TiO2 photocatalyst by individual micrometer-size particle analysis with on site combination of SEM-EDX and SR-XANES microscope, Spectrochim. Acta Part B, 62, 677–681 (2007).
13) 河合 潤:比例計数管,X線分析の進歩,35,209222 (2004).
14) 前田邦子,河合 潤:X線微量分析の妨害線:放 射的オ-ジェサテライト, X線分析の進歩,25, 25
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16) 河合 潤:ハンディー型蛍光X線元素センサー, 材料と環境,60,512-517 (2011).
17) 河合 潤,村上浩亮,小山徹也: 半導体検出器, X 線分析の進歩, 36, 189-200 (2005).
18) 塩井亮介,佐々木宣治,衣川吾郎,河合 潤:ビスマス,鉛,スズの蛍光X線Lα:Lβ強度比の変 化要因,X線分析の進歩,38,205-214 (2007).
19)  P. Chevallier, I. Ricordel, G. Meyer: Trace element determination in hair by synchrotron x-ray fluorescence analysis: application to the hair of Napoleon I, X-Ray Spectrom., 35, 125-130 (2006).
20)  M. L. Carvalho, A. F. Marques, J. Brito: “Synchrotron radiation and energy dispersive X-ray fluorescence applications on elemental distribution in human hair and bones”, American Institute of Physics, Conf. Proc. 653, Melville, New York, p.522-528 (2003) .
21) ロバート・H・ゴールドスミス:「砒素」を求めて,「科学捜査-続・化学と犯罪-」 (“More Chemistry and Crime, From Marsh Arsenic Test to DNA Profile”, Eds. S. M. Gerber, R. Saferstein, American Chemical Society, 1997),山崎 昶 訳, pp.171-193 (2000) (丸善).
22)  S. Imashuku, D. P. Tee, H. Seki, H. Miyauchi, O.Wada,
J. Kawai: J. Anal. Atom. Spectrom., (inpress).
23) 三島有二,丸山はる美,樋野賢治,津越敬寿,齋 藤直昭,西本右子,三井利幸:ソフトイオン化質 量分析法と多変量解析法を用いる植物油脂の定性 分析,60 (5), 409-418 (2011).

[附録:用語集]

サムピーク:検出器に2個のX線光子が粒子として同 時に(検出器の時間分解能以下の時間内に)入射 したとき,その和の電圧の電子パルスが発生する 現象.スペクトルでは,強いピークの2倍のエネルギー位置にピークが観測される. EPMA:電子プローブX線マイクロアナライザー.電 子ビームを入射させ,それによって励起された特 性X線を用いて元素定性・定量分析を行う.軽元 素(原子番号がおよそ18番以下の元素)では,シ ンクロトロン放射光による蛍光X線分析法より感 度が良い.波長分散(WDX)を使うものだけをEPMAと呼ぶと考える人もあるが,詳細については,ISOに関する本号の別の論文を参照.

SEM-EDX:走査型電子顕微鏡にエネルギー分散型X 線分光器をつけた分析装置.原理はEPMAと同 じ.形態観察をする走査型電子顕微鏡を強調した呼び方.EDX型EPMAと呼んでも良い.鑑定書では「X線マイクロアナライザー」と呼ばれている. cps:カウント・パー・セカンド. 1秒間のカウント数.

KEK-PF:つくば市の高エネルギー加速器研究機構 (KEKは旧名称の高エネルギー研の頭文字)にあるシンクロトロン放射光施設.Photon Factory「光 子の工場」はシンクロトロン放射光施設一般を指す普通名詞ではなく,つくばのKEKのシンクロト ロンだけを指す固有名詞である.

SPring-8:8GeVのSuper Photon リングという意味と光が泉のように涌くスプリングをかけたネーミングの,西播磨の大型放射光施設を指す固有名詞. Rayley散乱:弾性散乱ピークとも言う.シンクロトロン放射光の単色入射X線がそのまま散乱されてエ ネルギーが変化しないで観測されるピーク.

Compton散乱:非弾性散乱ピークとも言う.シンク ロトロン放射光の単色入射X 線のエネルギーが やや低くなって散乱される現象.20 keV以上の高エネルギーでは,エネルギーが高くなるほど, 試料の元素組成が相対的に軽元素になるほど強 くなる. ICP-AES:誘導結合プラズマ発光分光分析.水溶液試 料中の元素分析法.水溶液を電子レンジのような 高周波電磁場に噴霧してアルゴンガスとともに発光させ,発光ピークから元素の定性・定量分析を 行う.消費した試料は回収できない.pptレベルま で分析できる. ICP-MS:誘導結合プラズマ質量分析.ICP-AESより 感度が良い.試料量もより少なくて可能. XRD:X線回折.結晶構造をX線回折によって分析す る.亜砒酸(As2O3)と砒酸の違いなど結晶構造の 違いを分析できる.

IR:IR はインフラ・レッド,赤外線の意味だが,本 稿では赤外吸収分光分析法を指す.分子構造の違 いを,分子振動スペクトルによって知る.XRDと 同様に構造解析が可能.

ppm:1ppmは100万分の1の濃度.

1000ppmは0.1% を表す.通常は重量分率を意味する. ppb:ppmより3桁薄い濃度. ppt:ppbより3桁薄い濃度.

XRF:蛍光 X線分析法.1次X線を入射させ,それによって励起された蛍光X線を使って元素定性・定量分析を行う方法.実験室のX 線管装置でppm, シンクロトロンでppbまで容易に分析できるといわれている.

試料,資料,検体,試料片,資試料,被検物質:サンプリングしたものを試料(sample)と呼ぶ.犯罪 現場のすべての物質(空気も含めて)を分析するこ とはできないので,そこから意味のある部分をサンプルとして採取したものという意味である.そのサンプルから一部をとって装置に導入して測定 した場合,装置に導入した部分を検体・試料片な どと呼ぶ.英語ではspecimenである.資料は裁判 に資するという意味であろうが,分析化学の sample-specimen とは違う概念の用語である.「資 試料」という用語が使われることもあるが,分析 の対象となる「試料」とその分析結果を文書にした「資料」をあわせて含む用語である*.被検物 質は薬品に対して使われる場合が多い.本稿では資料と試料はほとんど同じ意味で混合して使われている.

*日本分析化学会編:「分析および分析値の信頼性」 丸善 (1998) p.24.

バリデーション*:妥当性確認.特定の分析法の不確 かさの評価,その方法が適切であることを実証するための検査.その方法が合目的的であることの確認.

*日本分析化学会編:「分析および分析値の信頼性」 丸善 (1998) p.24. 精確:精度と正確さの両方がともに高いことを表す. SOP:標準操作手順書,standard operation procedure SIMS:2次イオン質量分析法.イオンビームとして各種,質量分析法としても各種あるが,最も感度の 良い分析装置は「はやぶさ」の小惑星の分析にも使われようとしている. 調製:薬学用語で,試薬を調合すること.試料調製 (sample preparation)という.裁判の速記録では「調 整」と記述されている. EDX (EDS):エネルギー分散型X線分光法.半導体検 出器を用いる.

全元素同時測定が可能.WDX (WDS) :波長分散型X 線分光法.分光結晶を用いる.結晶分光器を回転させながらスキャンする必要があるが,エネルギー分解能が高く, Kα線はKα1とKα2に分離して観測できる.

SSD:半導体検出器.Solid State Detectorの略.Si, Si(Li),Geなどがある.高計数率に対応できない. 積分強度で1万cps程度までなら直線性が確保で きる.一般にSDDより効率がよく,特に高エネルギーX 線の検出効率が高い(半導体層が厚いか ら) .1990 年代まで使われた.

SDD:シリコン・ドリフト検出器.SSDと同じ原理であるが,100万cps程度の高計数率に対応できる. 半導体層が薄いのでX線が透過してしまい,高エ ネルギーX線の検出効率が悪い.1990年代後半から盛んに使われ始めた.


河合 潤(京都大学教育研究活動データベースに記載の内容)2020年2月3日現在

氏名(漢字/フリガナ/アルファベット表記)
河合 潤/カワイ ジユン/Kawai, Jun
所属部署・職名(部局/所属/講座等/職名)
工学部工学研究科/材料工学専攻材料プロセス工学講座/教授

論文 和歌山カレー砒素事件鑑定資料―蛍光X 線分析 河合潤 pdf

砒素鑑定の計測値を100万倍して対数をプロットして同一であると見せかけた(指摘したのは河合潤京大教授)計量計測データバンクニュース 2020年2月3日付け

テキスト文書に変換した文書「和歌山カレー事件ヒ素事件鑑定資料蛍光x線分析 河合潤」(2020年1月31日 計量計測データバンクニュース)

参考資料
元素記号-Wikipedia
元素記号-ウィクショナリー日本語版-Wiktionary
元素記号一覧表(PDF)
元素記号一覧表


2021年6月11日以後の気になるニュースです。(計量計測データバンク デイリーニュース)

和歌山毒カレー事件とその真相(犯罪の証拠とされた砒素鑑定の成否を検証する資料集)

砒素鑑定で計測値を100万倍して対数グラフで表示して似せる手法が使われた(犯罪の証拠とされた砒素鑑定の成否を検証する資料集)

2021年6月11日以後の気になるニュースです。(計量計測データバンク デイリーニュース)

和歌山毒カレー事件とその真相(犯罪の証拠とされた砒素鑑定の成否を検証する資料集)

砒素鑑定で計測値を100万倍して対数グラフで表示して似せる手法が使われた(犯罪の証拠とされた砒素鑑定の成否を検証する資料集)

鑑定の計測値を100万倍して対数をプロットして同一であると見せかけた(指摘したのは河合潤京大教授)

論文 和歌山カレー砒素事件鑑定資料―蛍光X 線分析 河合潤 pdf

テキスト文書に変換した文書「和歌山カレー事件ヒ素事件鑑定資料蛍光x線分析 河合潤」(2020年1月31日 計量計測データバンクニュース)

佐藤優氏によるカルロス・ゴーン事件の分析(2020年1月17日ラジオ放送より)

逃亡直前のゴーン被告が語ったこととは 郷原弁護士が会見(2020年1月22日)(動画・YouTube)
元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士が、22日午前11時から日本外国特派員協会(東京・千代田区)で記者会見する。郷原弁護士は昨年11月から12月にかけて、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告に5回面会し、計10時間以上にわたってインタビューを実施。ゴーン被告がレバノンに逃亡する直前に語った内容を明かす。

テレビ東京ニュース 2020年1月8日ベイルートでカルロス・ゴーン氏会見 2時間34分 動画・YouTube。

カルロス・ゴーン氏の2020年1月8日ベイルートでカルロス・ゴーン氏会見の要旨。

カルロス・ゴーン氏の動画声明の全文(2019年4月9日、弁護団側の翻訳)(計量計測データバンクニュース)(2020-01-08-full-text-of-carlos-ghosns-video-statement-translated-by-lawyers-on-april-9-2019-metrology-data-bank-)

計量計測データバンク2019年12月11日付けニュース(2019-12-11-weighing-data-bank-news-december-11-2019-

田中館愛橘とその時代-その13-(田中館愛橘と高野瀬宗則と関菊治)
明治24年から二年間だけあった物理学校度量衡科の卒業生68名のなかに関菊治がいた


田中館愛橘とその時代-その12-(田中館愛橘と高野瀬宗則)
関菊治が修業した物理学校度量衡科と物理学校創立した東京大学仏語物理学科卒業の同志21名のことなど。

田中館愛橘とその時代-その11-(田中館愛橘と高野瀬宗則)
物理学校の度量衡科を卒業した明治7年(1874年)生まれの長州人、関菊治(大阪府権度課長)

田中館愛橘とその時代-その10-(田中館愛橘と高野瀬宗則)
高野瀬宗則の権度課長着任と度量衡法制定(メートル条約締結と連動する日本の動き)

田中館愛橘とその時代-その9-(田中館愛橘と高野瀬宗則)
高野瀬秀隆と肥田城の水攻め(高野瀬宗則とその先祖の高野瀬秀隆)

田中館愛橘とその時代-その8-(田中館愛橘と高野瀬宗則)
彦根藩主の井伊直弼(大老)による安政の大獄

田中館愛橘とその時代-その7-(田中館愛橘と高野瀬宗則)
井伊直弼の死を国元へ伝える使者の高野瀬喜介、子息は高野瀬宗則

田中館愛橘とその時代-その6-(田中館愛橘と高野瀬宗則)
日本の近代度量衡制度を築き上げるために農商務省の権度課長に指名された高野瀬宗則

田中館愛橘とその時代-その5-(東京大学の始まりのころと現代の高等教育の実情)
日本物理学の草創期に物理学を背負う人々を育てた田中舘愛橘をさぐる-その5-

日本物理学の草創期に物理学を背負う人々を育てた田中舘愛橘をさぐる-その4-

日本物理学の草創期に物理学を背負う人々を育てた田中舘愛橘をさぐる-その3-

日本物理学の草創期に物理学を背負う人々を育てた田中舘愛橘をさぐる-その2-

日本物理学の草創期にその後日本の物理学を背負う多くの偉人を育てた日本物理学の祖である田中舘愛橘(たなかだて あいきつ)をさぐる。-その1-田中舘愛橘が育った江戸から明治にかけての日本の状況(執筆 横田俊英)

初版 物理学者で日本人初の国際度量衡委員の田中舘愛橘-その1-(執筆 横田俊英)

計量計測データバンク2019年12月11日付けニュース
2019-12-11-weighing-data-bank-news-december-11-2019-

2019近畿計量大会2019年11月16日、びわこ大津プリンスホテルで開く(開催日時:2019年11月16日(金)13:00~19:00
2019近畿計量協議会YouTube(2019年11月16日滋賀で開催)。YouTubeの動画です。
現場の計測管理 第12回座談会(日本計量新報社 計量計測データバンク主催)
計量計測データバンクが紹介する計量計測技術センター)(計量計測データバンク・ニュース)(2019年10月28日現在)
吉野彰氏リチウムイオン電池の開発功労で2019年ノーベル化学賞(計量計測データバンクニュース)
ノーベル化学賞吉野彰氏2019年
売り買いの妥当性がネットオークションを成立させた
放射線の測定に関係する資料を渉猟しておりました 執筆 日本計量新報編集部 横田俊英
計量法の検定対象機種に新たに追加された自動ハカリに関係する法規定】(編集部)
東京都計量検定所が自動はかりの法規制の説明会2019年3月12日実施
2019年3月6日計量器コンサルタント協会第2回技術研修会「自動捕捉式はかり」の説明を受ける
(資料) 日本の地方の計量協会など【分類2】[a-1]「計量計測データバンク」社会の統計と計量計測の統計
新潟県計量協会が3月6日に13回指定定期検査機関の日の式典施行。役員ほか総参加者31名で指定定期検査機関推進宣言を唱和。
新潟県計量協会が平成31年3月6日(水)第13回指定定期検査機関の日の式典施行
2019年(第17回)計量士全国大会全国大会(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)報道特集-総合編-
2019計量士全国大会写真集-その1-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
2019計量士全国大会写真集-その2-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
2019計量士全国大会写真集-その3-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
2019計量士全国大会写真集-その4-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
2019計量士全国大会写真集-その5-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)
2019計量士全国大会 ユーチューブ 動画集-その1-(2019年2月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開催)

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